家を追い出された俺は途方に暮れて夜の富山を彷徨った。木曜日の24時少し前、平日のこの時間は想像以上に人が歩いていない。
とりあえずこの茹だるような暑さと喉の渇きをどうにかしたい。でも俺の所持金は5,000円だ。日中ならどうとでも出来ただろうが悲しいことに今は夜中だ。どの店も基本閉まっている。
コンビニでもいいとも思ったが冷たい飲み物で喉を潤せたとしても暑さはどうにもできない。できればどこかに入って涼みたい。
スマホでどこか安い店を調べようにも充電がほとんどない。充電するのを忘れたまま寝落ちしたからだ。
「くそっ…充電器がささってなかったらさしといてくれてもいいだろ…本当にあいつは気が回らねぇ能無しだな…」
ぶつくさと言いながら歩いていると俺は目を奪われるようなピンクのネオンライトに照らされた。
俺は光の正体が気になりふと顔を上げた。
「なっなんだこの店…C、h、i…ん〜ぇぇ?ち、ち、ち、、?」
なんだか丸みのある可愛らしい文字とひらがなでもローマ字でも同じ読み方のできるデザインの可愛らしい看板が光っていた。
確証はないがおそらく読み方は『ちちち』であっていると思う。
不思議なことに俺はこの『ちちち』が頭から離れなくなっていた。入ったこともないし興味もなかったから知らないがきっとこういう店は高いだろう。やめておけ。俺の所持金は5,000円だぞ。そう言い聞かせていたのに気がつけば俺はちちちに入るためにビルの階段を登っていた。
これが俺とちちちの出会いだ_